広島市の地価下落の原因と解消 

2005年3月の月刊不動産鑑定への出稿記事です。


広島市の地価下落は,様々な要因が複合的に作用 した結果であると推測する。しかし,これらの要因は解決あるいは一歩前進させることによって,今後の広 島市の発展と活性化につながる原動力でもあるといえる。

そのうち主な要因として,個人的見解であるが次の 事項が指摘できる。

1.瀬戸内海に臨む河口の街として市街地が限定さ れ,物理的,地勢的な面で周辺背後への発展が阻害されている。 南区,佐伯区などの沿岸部を中心に海浜都市とし ての市街地整備や基盤整備が進展し,背後の丘陵地に人口10万人の工業・住宅・研究・学園の自立型副都市として西風新都が完成しつつあり,これからの発展が期待される。

2.アクセスを中心とする都市基盤整備の不備や遅 れが目立つ。 新交通システムの導入,西風新都線の開通などによる整備が進展している。

3.国際都市にふさわしい劇場,音楽会場,博物館 などの文化施設が整備されていない。重要な課題として,候補地もあり,順次整備され ていくものと考える。

4.全市的な立場で三位一体となって協調体制を図るべき政治・経済・行政の間に不協和音が存在し, 巨大プロジェクト実行の大きなネックとなっている。

三者間の協調体制が整い,市民球場の建設をはじめとする今後の広島市発展につながるプロジェクトが動き始めている。

5.狭い市街地の一極集中の弊害を回避するために, 多極分散型の都市形成を進めた結果,各区にドングリの背比べのような特色のない商業核が形成され, 地域の既存商業地城との競合と.大型ショッピングセンターの攻勢にさらされている。 地域と一体になって特色と魅力のある商店街づくりが必要である。

6 ,活性化の目玉として期待されていたJR貨物ヤー ド跡地の球場建設計画の解消が,広島の元気のなさとして喧伝された。 関係者の間で,球場建設や有効活用について再検討されており,滑性化の目玉になるものと予測する。

7.中枢都市にあって欠かすことのできない重要な 広島空港と広島大学を手放したことが,今日の広島市低迷の大きな要因となっていることに間違いはな い。

環境や県民の公平感あるいは大学の更なる発展, そして移転先の活性化の観点から止むを得なかったとはいえ,両施設とも市域内に残して中枢機能の衰 退化に歯止めをかけるべきだったといえよう。

8.基幹産業であり,すそ野の広い自動車メーカー 「マツダ」の衰退や工場の県外移転・海外進出があらゆる分野に及び,広島経済界に影となって,大き く影響している。 最近のマツダの業績回復により,産業の滑性化の原動力になっている。

9.大規模住宅団地の投げ売り的な価格崩壊現象の 発生が,周辺住宅団地の価格下落に大きく影響し, 広島都市圏の住宅価格の下げ足を早めた。 対象団地の価格崩壊現象も一段落し,周辺団地の立地条件によって温度差はあるものの価格下落の影 響は解消されつつある。

10.周辺住宅団地の新規分譲を筆頭に公共団体,氏 間を問わず不動産の売り一色の供給過剰が在庫増につながり,上記9.の価格崩壊の要因とあいまっ て住宅地の価格値下げに拍車をかけた。供給過剰などによる市場を無視した価格値下げも おさまり,住宅地価格は需給のバランスを取り戻しつつある。